相続登記の義務化

相続登記義務化の概要

2021年2月に「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」が決定されました。この改正によって、相続登記や住所移転登記が義務化されることになりました。

参考:法務省「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」

相続登記とは

不動産の所有者の名義を変更するとき、法務局で「所有権移転登記」をおこないます。この名義変更は「相続、贈与、売買」など、さまざまな事由で発生します。

このうち「相続」により亡くなった方から相続人に名義変更することを「相続登記」と呼びます。手続については、以下のサイトをご覧ください。

参考:法務省「あなたと家族をつなぐ相続登記 ~相続登記・遺産分割を進めましょう~」

一般的に、登記は司法書士に依頼する方が多いですが、ご自身で手続することも可能です。相続登記も、ご自身で申請できます。

ただし、相続登記は準備や手続が非常に複雑になる場合があります。そのようなケースでは、集める書類が膨大になりますので、司法書士に任せた方がいいでしょう。

開始日はいつから?

令和3年4月21日に、民法や不動産登記法等の一部を改正する法律が成立しました。この改正で相続登記が義務化され、令和6年(2024年)4月1日からスタートします。

スタートしたあとは「相続の開始および所有権を取得したと知った日から3年以内」に登記を済ませなくてはなりません。

参考:民法等の一部を改正する法律

過去の相続不動産も対象?

相続登記義務化の対象者は、不動産を取得した相続人です。施行日(令和6年4月1日)前に相続が発生していた方も、相続登記の義務が課されます。

法令には、制定前の事実にまでさかのぼって適用しないとする原則があります。よって、改正の効力がおよぶのは施行後の出来事であって、施行前の出来事については改正法の適用対象外となります。

しかし、以下は改正前の事案でもさかのぼって適用されることになっているのです。

 

・相続登記の義務化

・住所等の変更登記の義務化



ただし、どちらも猶予期間があります。

相続登記は「施行日」または「相続による所有権の取得を知った日」のいずれか遅い日から3年間の猶予期間が与えられます (改正不動産登記法 附則第5条第6項)。

住所変更登記は、施行日から2年間の猶予期間が与えられます (改正不動産登記法 附則第5条第7項)。

期限はいつまで?

改正後の相続登記の期限は、自己のために相続開始があったことを知り、かつ不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内です (改正不動産登記法 第76条の2)。

遺産分割協議等が難航して期限に間に合わないときは「相続人申告登記」の申請をおこなうことで義務を履行したことにできます (詳しくは後述)。

なお、相続だけでなく、遺贈(遺言によって財産を他人に贈与すること)を原因とする所有権移転登記申請も同様です。

罰則はある?

正当な理由がないのに、不動産の相続を知ってから3年以内に相続登記の申請をしなかった場合、10万円以下の過料(金銭の納付を命じる罰則)の適用対象となります (改正不動産登記法 第164条)。

過料適用の際は、あらかじめ登記官が履行期間を経過した相続人に対して催告(登記の請求)をおこないます。それでも正当な理由なく登記をしなかった場合に、過料が適用されます。

ちなみに「正当な理由」については、今後、内容を明確にしていく予定です。想定される例を、ご紹介しておきましょう。

 

・関係者が多くて必要な資料を集めるのが難しいケース

・遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているケース

・申請義務を負う相続人自身に重病等の事情があるケース



参考:相続登記の申請の義務化と過料について

 

相続登記義務化の注意点

つづいて、相続登記義務化に関する注意点をご紹介します。

遺産分割の協議が難航した場合も登記が必要

相続人のあいだで遺産分割の協議が完了した場合は、その結果をふまえた登記をおこないます。では、協議が難航して期限を迎えそうな場合はどうすればいいのでしょうか。

その場合は「相続人申告登記」の手続を取ることで義務を履行したことにできます (改正不動産登記法 第76条の3)。

相続人申告登記は今回新たに作られた登記で、令和6年4月1日から開始されます。相続人が登記名義人の法定相続人であることを申し出て、登記官がその方の氏名や住所などを職権(地位にもとづき実施できる権限)で登記します。

その他にも、相続人申告登記には以下の特徴があります。

 

・持分は登記されない

・単独で申告できる

・添付書面が簡略化されている

・非課税



相続人申告登記をおこなったあと、遺産分割の話し合いが決着したときは「遺産分割の日から3年以内」に相続登記の申請をすることが義務づけられています。

なお、相続開始から10年たった遺産分割は、個別案件ごとに調整をおこなう「具体的相続分」ではなく、原則的に「法定相続分」を基準とするように改められました (改正民法 第904条の3)。

所有者の住所等が変わった場合も登記が必要

従来は住所変更登記も義務ではなく、所有者が転居していても放置されがちでした。とりわけ人口の流動性が高い都市部では住所変更登記を完了していない方が多く、所有者不明土地が発生する原因になっています。

今回の改正では、登記簿上の所有者の住所等が変わった場合、その申請登記が義務化されます (令和8年4月末までに開始予定)。期限は、住所等の変更日から2年以内です (改正不動産登記法 第76条の5)。

住所等の変更登記についても、正当な理由のない申請漏れは、5万円以下の過料の適用対象になります (改正不動産登記法 第164条第2項)。

登記内容が事実と違う場合、登記官は職権で変更登記できる

登記官が他の公的機関から名義人の死亡や転居などの情報を取得した場合、登記官は職権で登記簿に表示できるようになります (改正不動産登記法 第76条の4)。

ただし、個人情報保護の観点から、登記官は名義人に住所等の変更の了解(「申出」と扱う)を取ったうえで変更の登記をおこなうことになっています。