不動産の『相続』について”プロ”が解説

1. 土地相続の基本的な知識

 

 

土地の相続とは

土地の相続とは、亡くなった人の土地を受け継ぐことを言います。亡くなった人(土地の所有者)を「被相続人」、土地を受け継ぐ人を「相続人」と言います。

土地を相続した人は、その土地の所有者が自らであることを明らかにするため名義変更を行います。これまで名義変更は任意でしたが、2024年4月1日からは相続による名義変更は義務化されます。

法定相続人になる人の範囲

遺言がない相続では、相続できる人の範囲を定義する必要があります。民法で定められた被相続人の財産を相続できる人を「法定相続人」と言います。

まず、被相続人の配偶者が法定相続人になります。続いて血縁関係にある人が法定相続人になりますが、このとき相続人の順位が定められていて(下記参照)、順位が上位にある人がいない場合のみ、下位順位の人は法定相続人になることができます。

・第1順位:子ども、代襲相続人(孫)
・第2順位:親、祖父母
・第3順位:兄弟姉妹、代襲相続人(甥、姪)

例をあげると、第1順位の子どもがいる場合は、第2順位の親や祖父母、第3順位の兄弟姉妹は法定相続人にはなりません。あるいは第1順位である子どもがなく、第2順位の親が相続を放棄した場合は、第3順位の兄弟姉妹が法定相続人になります。

代襲相続人とは子どもや兄弟姉妹がすでに亡くなっていたとき、その相続権利を受け継ぐ人のことです。被相続人から見ると孫や甥、姪になります。

土地の相続の仕方

複数人の相続人がいる場合で、相続財産に土地があるときは、次の3つの方法のいずれかで相続が行われることが大半です。

・現物分割
・代償分割
・換価分割

複数の相続人で土地を現物分割するときは、相続の割合に応じた持分で土地を分け合う方法と、相続の割合に応じて土地を分筆しそれぞれが分筆後の土地の所有者となる方法があります。

代償分割は、相続財産のメインが土地で、複数の相続人がいるときに利用される方法です。現物で土地を相続した人が、ほかの相続人にお金を払うなどして相続のバランスが取れるように調整します。
土地を分けることをしないので、土地の価値が減らさずに相続できる点がメリットです。

換価分割は土地として相続した後に、その土地を売却して得た利益を相続人同士で分け合う方法です。売却でお金に換えることで分割が容易になります。

2. 土地の相続登記(名義変更)のやり方

相続放棄をせず土地を相続したら、所有者を相続人へと変える必要があります。これを相続登記による名義変更と言います。

相続登記の義務化

2024年4月1日から、相続による土地の名義変更を相続から3年以内に行うことが義務化されます。名義変更を伴わない相続によって全国的に所有者不明の土地が増えていることが問題となっているためです。

土地相続を相談できる専門家と費用相場

土地を相続するときは、その相続の仕方や状況によって専門家への相談が適切となることがあります。いくつか例をあげてみましょう。

費用は事例として一般的であろうものを行った場合のものです。当然ながらケースバイケースで費用は変わりますので、参考程度にとどめてください。

 

司法書士

相続登記を行うときの相談先です。登記手続き完了までをお願いする場合、内容によって報酬が変わりますので確認をしましょう。

 

税理士

多額な相続税が発生するときにふさわしい相談先です。適正額で抜け漏れのない手続きを依頼しましょう。相場は遺産総額の0.5~1.0%と言われています。

 

弁護士

相続で起こりがちな相続人同士によるトラブルがあったときや、代理人として手続きを任せたいときの相談先です。弁護士費用は相談内容によるところが大きいため、確認をしましょう。

 

不動産会社

相続した土地を売却するときの相談先です。売却に至った場合に支払う仲介手数料は400万円以上の取引の場合で「売却金額の3%+6万円(税抜)」が上限金額です。

相続手続きは自分でもできる

相続手続きは専門家へ頼まずとも相続人自ら行うことができます。ただし遺産分割協議書の作成や、必要書類の準備、煩雑な登記手続きを自分で行うことの手間を考えて、大半の人は専門家へ依頼しています。

3. 土地を相続する際の基本的な流れ

 

 

遺言状の有無を調べる

遺言書は被相続人となる人が自分で記述する自筆証書遺言と、公証人が記述する公正証書遺言があります。公正証書遺言は原本を公証役場に保管しますので、遺言状があるかどうかわからないときは必要な手続きを経て、公証役場で調べてもらうことが可能です。

自筆証書遺言はこれまで遺言の有無が分からない、紛失の可能性があるなどのリスクがありました。令和2年より法務局が遺言書の原本を保管する「自筆証書遺言書保管制度」がスタートし、従来より遺言状の有無を確認しやすくなっています。

相続人の調査・確定、相続財産の調査・確定

遺言状がなく、法定相続をベースに相続を行うならだれが法定相続人になるのかを調査し、確定する必要があります。

法定相続人には前述のとおり優先順位があります。どの順位に法定相続人になる人が何人いるのかを明らかにするために、被相続人の出生から死亡までの戸籍を集めて調査します。

子どもが亡くなっていて孫が代襲相続人になる、被相続人の兄弟が法定相続人となるといったケースも十分考えられます。まだ孫が幼い年齢であったり、兄弟間が疎遠になっていて連絡が取れないといったケースであっても、法定相続人から勝手に外すことはできません。

続いて相続財産の調査と確定です。相続財産が土地だけなれば話は簡単ですが、現金や株式等の有価証券も相続財産となることから、財産を目録として整理する必要があります。財産はプラスだけに限りません。住宅ローンや借金などマイナスの財産も含めて対象の調査、確定を行いましょう。

遺産分割協議の実施

遺言書がない場合、相続人全員の同意があって、ようやく財産の相続が可能となります。相続人の同意を図るために行われるのが遺産分割協議で、その結果をとりまとめ書面化したものが遺産分割協議書です。遺産分割協議書は相続登記の際にも必要となります。

 

土地の相続登記を行う

被相続人の戸籍謄本や住民票の除票、遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書などを用意し、法務局指定の方法で手続きを行います。司法書士へ相談、依頼して代行してもらうこともできます。

土地の売却と利益の分割

換価分割を行う場合、相続した土地を適切な時期に売却し、その利益を相続人で分け合うことになります。土地の売却を不動産会社へ依頼する際は相続によって取得したことと、換価分割を行うことを伝えておくとスムーズでしょう。

換価分割では譲渡所得税が発生するケースもありますが、不動産会社に相談しておけば不動産会社を介して税理士のサポートを受けられることもあります。

4. 土地の相続と相続税

相続税は税金の中でも複雑な制度で、計算も簡単ではありません。

相続税とはどういう税金?

相続税とは、相続によって財産を取得した場合にかかる税金です。相続税は相続した財産が高額になるほど税率も高くなる累進課税制度を採用しています。ただし、相続人の数によって決まる基礎控除額を超えない額の相続であれば、相続税は発生せず申告も不要です。

相続税がある場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内に申告と納付をしなければなりません。

相続財産が3600万円以下なら相続税はかからない?

相続税の基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算します。法定相続人は最低でも1名いるので、もっとも少ない場合の基礎控除額は3,600万円です。つまり相続財産が3,600万円以下であれば、相続税がかかることはありません。

法定相続人が2名なら基礎控除額は4,200万円、同3名なら基礎控除額は4,800万円まで拡大されます。ほかに要件を満たせば利用できる税額控除があります。代表的なものをいくつか紹介します。

 

配偶者の税額軽減

配偶者は取得した財産が1億6,000万円以下または配偶者の法定相続分相当額以下の場合には実質的に相続税はかからない仕組みです。

 

未成年者控除

相続人が未成年である場合、「(20歳-相続開始時の年齢)×10万円」を控除できます。

 

障害者控除

相続人が障害者である場合、「(85歳-相続開始時の年齢)×10万円」を控除できます。

 

相次相続控除

10年以内に2回以上の相続があった場合、一定の税額を控除できます。

 

贈与税額控除

生前贈与加算の対象となった人が贈与税を課せられていた場合、その贈与税額を控除できます。

5. 相続税が払えないケースと対策

相続税を計算したところ高すぎて払えない、という声を耳にすることがあります。特に土地を相続した場合、すぐにそれがお金を生む状況になければ、ほかの相続財産を現金化したり、手持ちのキャッシュで相続税を払うほかありません。

土地の評価が高いケースでは税額も高額になり、税金を払えなくなることも十分起こりえます。

相続税が払えない場合はどうなる?

税金を払わないままでいると無申告加算税、延滞税などのペナルティが課せられます。それでも滞納し続けると、国税庁によってその土地は差し押さえられます。そのようなことにならないように注意が必要です。

相続税が払えない場合の対策

もし相続した土地の相続税が払えなかったらどうなるのでしょうか。方法はふたつあります。ひとつは延納と言って、相続税の全部または一部を年払いで分割して納付する方法です。
土地など不動産を相続し、金銭一括納付が困難なときに利用されることが多くあります。最高で20年かけて支払うことが可能です。利子税が別にかかります。

ふたつめの方法は物納です。相続した土地そのものを納付します。土地の場合、税額に見合った分を切り分けて納付することができないことも多く、その価値が相続税額を超過するときは、超過分が後で還付されます。物納は延納でも払えない場合に限り認められている納付方法です。

相続した土地を活用する予定がないなら、土地を売却してその売却額で支払うことも検討できるでしょう。あるいは土地は売らず、その土地を担保に金融機関から融資を受けて乗り切るという方法もあります。

いずれの方法が最適かはケースバイケースです。ご自身のケースでどの方法がベターになるのか、検討してみましょう。相続財産を選定する際に、相続税をあらかじめ計算し、その分は現金化しやすい財産で受け取っておくなどの対策も考えておきましょう。

6. 相続前にできる限りの準備を

土地の相続は全国あちこちで発生していることですが、自分自身のこととして考えると、生涯に1度、多くても2度あるかないかでしょう。事前に十分な準備をしたり、経験値で判断することが難しくなります。

自分でできないことは専門家の手を借りるなどして、適切な相続をすることを第一に考えましょう。その場合でもこの記事で紹介したような相続の概要が分かっていれば、話はスムーズになります。将来土地の相続が予想されるなら、少しずつでも相続の勉強を始めておきましょう。